陸上自衛隊郡山駐屯地（福島）で勤務していた当時に複数の男性隊員から性暴力を受けていた元1等陸士の五ノ井里奈さん（23）はこれまで、自身の被害についての調査に加え、防衛省や自衛隊内でのさまざまなハラスメントの実態を明らかにするよう求めてきた。8月末に防衛省へ署名を提出した際には、「私の被害をなかったことにしてほしくない。厳正な再調査や処分、謝罪をしてもらいたい」と語っていた。

　五ノ井さんは2020年9月に郡山駐屯地に配属された直後から被害に遭い、22年1月には休職せざるを得なくなった。6月下旬に退職し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で自身の被害を告発した。

　一方、防衛省が「被害の事実を確認した」と発表したのは9月下旬。幹部からの謝罪を受けた後、五ノ井さんは「本当に長い道のりだった。21年8月に遭った被害について調査してくださいと（当時）言ったのに、証言が全く出てこず、大ごとになってから認められた」と話した。

　さらに「私は夢を持って陸上自衛隊に入隊した。最初からこのような調査をしていただければ。認められるのが遅い」と指摘。自身が退職を余儀なくされてから本格的な対応を始めたとして、防衛省の姿勢を批判した。

　また10月17日には、性暴力に関与した男性隊員のうち4人から直接謝罪された。その後の記者会見で、五ノ井さんは「やっとこの日が来たんだという思い。ここまで1年半、自分だけを信じて進んできた。目的とした加害者からの謝罪をもらったことで区切りとしたい」と述べた。そのうえで、「謝罪されたから許される問題でもない。私の傷も一生の傷なので、自分のしたことに責任を持って償ってほしい」と求めた。

　五ノ井さんは非公開の場で4人と個別に面会した。これについて、五ノ井さんは「（隊員には）家族がいます。私なりの配慮です」とした。「私だけが被害者ではない。家族が信じて待っているのに、裏切りだと思う」とも述べていた。

　五ノ井さんの告発をきっかけに、防衛省は防衛省・自衛隊の全組織を対象にしたハラスメントに関する特別防衛監察に乗り出した。

　五ノ井さんは「被害を申告した人が退職に追い込まれることがないように、解決に至る対応を考えてほしい」と話す。

　自身の今後については、10月17日の会見でこう話していた。「（これまでやってきた）柔道を子どもに教えることと、人を笑わせることが私の生きがい。被害者としてではなく、一人の人間として強く生きる。人のためにできることをして、自分らしく生きていきたい」【内橋寿明】