名古屋市中区の「ドン・キホーテ栄本店」そばの栄広場。通称「ドン横」と呼ばれるその場所は、夜になると10～20代の若者が集まっていた。繁華街のそばで、性犯罪や薬物などの危険とは隣り合わせ。犯罪に巻き込まれる可能性があるのに、若者たちは何に魅了され、なぜ集まるのか。答えが知りたくなり、1月からドン横に通い始めた。

　若者たちは「ドン横キッズ」と呼ばれる。夕方から夜にかけて、どこからともなく集まり、仲間と談笑したり、一緒にご飯を食べたり。思い思いの時間を過ごしているように見える。

　「おばさん、そのだっさい格好で来たって仲間だと思われないよ」。最初に話すようになった中学3年の少女（15）は記者（27）に厳しい言葉を投げかけてきた。

　キッズたちにはフリルやモノトーンの服に、厚底の靴を身につけるのが特徴の「地雷系」や「量産型」などと呼ばれる「制服」があった。記者も制服を購入し、次からはそれらを着て会うことにした。

　「同じ格好をしていると安心する」。少女は、父子家庭で育ったことや、学校でいじめに遭っていることなど、洗いざらい打ち明けてくれた。「普通と違うだけで排除されちゃう。ここは仲間はずれにされた人たちが集まるからわかりあえる」と話す少女はあどけない笑顔を見せた。

　ドン横には興味本位でやってくる若者たちも多くいた。「（動画投稿アプリの）TikTok（ティックトック）でドン横がバズっているから来た」「夜に出歩くのが新鮮で楽しい」――。多種多様な理由で集まるドン横は、若者たちのどんなニーズにも応えて包み込む「楽園」のような場所だった。

　居場所のない子どもたちを支援するNPO法人「全国こども福祉センター」（名古屋市中村区）の荒井和樹代表は「夜は危ないと怒るのではなく、まずは友達のような関係を築くことが大切。そうすれば助けを求めやすくなるし、小さなSOSにも気付くことができる」と話す。少女たちにとっては「ドン横」も一つの社会であり、その中で成長していくこともあるという。

　取材から約半年。最初に出会った少女たちは悩みや近況を気軽に話してくれるようになった。だが、ドン横は閉鎖され、少女たちはまた居場所を求めて夜の繁華街をさまよっている。

　同じ目線で、同じ景色を見て、一緒に考える。寄り添うからこそ、理解できることもある。クローゼットの「制服」を見るたびにそう思っている。【森田采花】

ドン横キッズ

　名古屋・栄「ドン・キホーテ栄本店」の近くの栄広場などに集まる10～20代の若者。栄広場は大規模な再開発事業のため6月から閉鎖され、集まっていた若者たちは近くの池田公園やオアシス21などを新たな「たまり場」にしている。