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　11月中旬、佐賀県唐津市の呼子（よぶこ）スポーツセンター。小学生のバレーボール大会が開かれていた。円陣を組む子どもたちのなかで、監督の声がコートに響く。「手をのばして打ちなさい！」

　熱血監督のげきは、バレーボール大会ではよくある風景だ。しかし、この大会は、かなり様子が違った。

　「いま監督、怒ってたよね？」

　試合の合間なのに、円陣のなかに元バレーボール日本代表の益子（ますこ）直美さん（56）が割って入ったのだ。

　益子さんは、子どもに指導した監督の松尾幸広さん（59）のもとに駆け寄り、周りの子どもたちに笑顔で問いかけた。「いま怒ったよね？」

　子どもたちは笑顔で「うん、うん」とうなずく。益子さんは、赤い「×」印の書かれたマスクを松尾監督に付けた。応援の保護者からも笑みが漏れた。

　体育館を見上げると、ピンク色の横断幕が掲げられていた。

　「監督が怒ってはいけない大会」

　ロゴには、子どもたちがボールの周りに笑顔で輪になる姿がある。

　益子さんが2015年から、全国各地で主催する小学生バレーボール大会では、指導者が子どもたちに怒らないのがルールだ。怒った指導者に対しては、益子さんが試合中でも介入し、注意することになっている。

　注意を受けた松尾さんはその後、「いい感じ」「その調子でいこう」と、選手への声かけが前向きになった。

　迎えた大会の最終戦では、チームの子どもたちが粘り強くボールを拾い、逆転勝ちした。試合終了の瞬間、松尾さんが「よっしゃー！」とジャンプしながらガッツポーズし、保護者たちも驚きの表情を見せた。

　松尾さんは閉会式で、益子さんから「スマイル賞」を受け、「今まででベストの試合だった」と振り返った。

　この日プレーした八幡奈々星さん（10）は「監督が怒らないとわかっているので、みんなリラックスしてできた」と笑顔で話した。

　益子さんは中学からバレーボールを始め、東京・共栄学園のエースとして高校バレーの全国大会（春高バレー）で準優勝を果たした。卒業後はイトーヨーカドーに入団し、日本代表として世界選手権やW杯で活躍した。

　しかし、「毎日、バレーをやめようと思っていました」。活躍の裏には、暴力や体罰が日常化した指導の現実があった。

　ミスをすれば顔をはたかれる、両手で上半身から突き飛ばされる、怒鳴られながら至近距離で顔にボールをぶつけられる。反論することなど許されなかった。

　往復ビンタは最高で21連発…